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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)11331号 判決

原告

片田良子

ほか三名

代理人

高橋竜彦

高橋陽子

被告

共栄火災海上保険相互会社

代理人

伊達利知

ほか三名

主文

被告は原告に対し、それぞれ金五〇万円およびこれに対する昭和四三年一〇月九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決および仮執行の宣言を求め、請求の原因として、

「一、(事故の発生)

昭和四二年一一月四日午前四時三〇分頃、青森県弘前市大字和徳字野田五四番地先路上において、訴外児玉トメ(以下訴外トメと略称)は訴外児玉俊幹運転の自家用小型貨物自動車の助手席に同乗していたところ、同車は訴外長尾正志所有の自家用大型貨物自動車(青一ゆ四七四六号)に衝突し、このため脳挫傷、顔面打撲等により死亡した。

二、(原告らの地位)

原告ら四名は、父訴外片田穂、母訴外トメとの間の実子であるが、両親は昭和三二年三月一八日協議離婚し、その後訴外トメは昭和三五年三月一日訴外児玉俊太郎と再婚した。

三、(損害)

(一)  原告らの慰藉料

訴外トメ死亡当時、原告片田寿、同信子は、母である訴外トメと義父である訴外児玉俊太郎方で母の庇護のもとに生活をしており、原告片田良子および同寿悦はそれぞれ親元を離れ、良子は上京してデパート店員として、寿悦は北海道で会社員として寮生活を送つていたものの、休日には母親を訪れたり母親が上京したりして、相互に頼り合つて生活していた。

訴外トメは、本件事故当時四一歳の健康な性で、早朝から夜遅くまで家業である鮮魚商に精を出していたが、原告らの義父児玉俊太郎は生来怠情であり、訴外トメの死亡後は原告片田寿、同信子は冷遇されたため居たたまれず、姉の原告片田良子を頼つて上京したもので、殊に同原告はこれから結婚する重要な時期に当つて頼りとなるべき母を失つた。

右のような事情に鑑み、原告らの精神的苦痛を慰藉するためには、慰藉料は原告各人につき、それぞれ金三〇〇万円が相当である。

(二)  訴外トメの死亡による逸失利益の相続

訴外トメは、死亡時四一歳四ケ月の健康な女性で、弘前市内二ケ所において鮮魚商を営んでいたものであり、夫俊太郎は名ばかりで、実際の経営は訴外トメが殆ど全て行なつており、右営業による収益は必要経費を控除して最低一五万円は下らず、生活費一ケ月二万円を更に控除すると純利益は一三万円である。そして、同訴外人の平均余命は33.46年であるので、本件事故がなければ、満六〇歳までの一九年間は鮮魚商を営業できた筈で、その純益合計から年毎のホフマン式計算方法により年五分の中間利息を控除すると、二〇四六万円(万未満切捨)となる。

ところで、原告らは訴外トメの実子として、その夫である訴外俊太郎と共に共同相続人であり、原告らは右金額の各六分の一に当る三四一万円を相続した。

四、(保険契約)

加害者訴外長尾正志は、加害車両につき前所有者三浦勝義名義で、被告と左記内容の保険契約を結んでいた。

保険契約者    三浦勝義

自動車登録番号  UG六八〇―三―〇〇〇

又は車両番号   七九

保険期間     自昭和四二年五月二五日

至昭和四三年六月二五日

自動車の用途・種別 自家用大型貨物

三、(結論)

よつて、原告らは、自動車損害賠償保障法(以下自賠法略称)一六条に基き、相続分に応じて、各五〇万円の損害賠償額の支払および右金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年一〇月九日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

と述べ、抗弁に対し、

「被告が訴外児玉俊太郎および同新岡兼次郎に三〇〇万円を支払つたことは認めるが、右支払は児玉俊太郎の相続分に対応する一〇〇万円については有効であつても、原告らに対する有効な弁済ではない。

と述べた。

被告訴訟代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」の判決を求め、答弁として、

「一、請求原因第一項は認める。

二、同第二項は不知。

三、同第三項中、(二)は争い、(二)は訴外トメの逸失利益は九〇〇万円の限度で認め、その余は争う。

四、同第四項は認める。」

と述べ、抗弁として、

「被告は、昭和四三年二月二日、訴外トメの夫訴外児玉俊太郎および父訴外新岡兼次郎の両名に対して、自動車損害賠償責任保険の死亡の場合の損害填補限度額三〇〇万円を自賠法一六条の損害賠償額として支払済みである。

自賠法一六条所定の保険者に対する損害賠償額支払請求権は、被害者死亡の場合当該請求権それ自体が共同相続人によつて法定相続分に応じて分割取得されるものではなく、損害賠償額の支払請求者についてその請求が容認されるべきものである以上、当該請求者に対して支払をすれば、その支払をした限度において保険者は免責されるものである。」

と述べた。

証拠〈略〉

理由

一、(事故の発生)

請求原因第一項は当事者間に争がない。

二、(原告らの地位)

〈証拠〉によれば、請求原因第二項の事実が認められる。

三、(損害)

訴外トメの逸失利益が少くとも九〇〇万円であることは当事者間に争がない。

したがつて、原告らは、それぞれ少くとも右金額の各六分の一に当る一五〇万円の損害賠償請求権を有することになる。

四、(保険契約)

請求原因第四項は当事者間に争がない。

五、(弁済の抗弁)

被告が、亡トメの夫児玉俊太郎および亡トメの父新岡兼次郎に三〇〇万円を支払つたことは当事者間に争がない。そこで右弁済の効力について判断するに、自賠法は損害賠償を直接且つ現実に保障する方法として自動車損害賠償責任保険制度等を創設し、右保険制度において、先ず被害者側が加害者側から損害賠償を受け次に賠償した加害者側が保険会社から保険金を受け取るという方法の他に、同法一六条により被害者(直接の被害者に限らず全ての賠償請求権者を含む)が保険会社に直接損害賠償額の支払を請求し得る途を開いたものであり、加害者側に対する損害賠償請求権が各相続人に相続分に応じて分割されるのに対応して、保険会社に対する損害賠償請求権も相続分に応じて分割されるものと解すべきであり、このように解することが同法一六条三項の趣旨にも合致するのである。この点に関する被告の主張は独自の見解であつて、当裁判所としては採用できない。

右のように、責任保険からの支払額については本来権利者が賠償額に応じて持分を有するのであるから、そのうちの一人に持分以上の額を支払つたとしても、債権の準占有者に対する弁済として救済されない限り有効な弁済にはならない。

したがつて、準占有者に対する弁済である指の主張立証のない本件においては、被告の訴外児玉俊太郎および同新岡兼次郎に対する三〇〇万円の支払は、児玉俊太郎の相続分一〇〇万円についてのみ弁済として有効であるに過ぎず、二〇〇万円については被告の抗弁は理由がない。

六、(結論)

よつて、原告の本訴請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。(篠田省二)

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